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江口大象先生を偲んで

九月三日江口先生が逝去され、一か月が経とうとしています。葬儀にはコロナ禍にも拘わらず、大勢の方が参列くださいました。また供花や弔電も沢山いただきました。皆さんありがとうございました。賑やかなことが好きだった先生は皆さんのご厚情にふれ微笑んでおられることだと思います。

先生の生前の様子は先月号のマンピツに詳しく書かれていますのでご覧いただきたいと思いますが、本当に突然なお別れでした。私事ですが三日前には、先生が二階の事務所に来られ、前日の選別会のことや他愛もない話を一時間余りもしたのですが別れ際に「片付けをしていたら墨が沢山出てきた。お前、墨いらんか」と言われたのが先生との最後の会話になりました。

片付けと言えば二か月位前のことです。お稽古に使う法帖や字書類を除き、すべての書籍を弟子たちに分け与え、アルバムや書類などの整理をされたのです。また日展、璞社書展の作品をはじめ、依頼されていた他社の雑誌の一年分の手本と解説を書き終え、書源の手本や学び方を数か月分いただいた矢先のことでした。更に間際までお稽古や選別会で璞社の大勢の方と会い、遠方の方とは電話で話もされました。前日には愛用の三輪自転車に乗って散髪にも行かれました。全ての仕事をやり遂げ、皆に会って挨拶をし、身支度をして旅立たれたのです。先月号の先生の最後になった巻頭言を読まれた方はお気付きになったかと思いますが、先生はご自身の運命を悟っておられたのかも知れません。先生らしく身辺の整理をされて潔く幕を引かれました。

先生宅の玄関には「破顔大笑」の額作品が掛けられています。「大笑」は「大象」に通じる語で「破顔一笑」をもじった言葉で、書源発刊600号を記念して書かれた作です。自身の作を自宅に飾るまいと思っていたのに、”この作だけは別”と言わしめたお気に入りの作品なのです。「破顔大笑」、文字通り先生はいつも笑顔を絶やさない穏やかな人柄でした。争いごとを避け協調性を重んじた生き様を終生貫かれました。先生らしいといえば、自他ともに認める「雨男」でした。告別式後に小雨が降り、それは実害のない雨でした。「雨男」をここでも貫かれました。大学三年生で入門し現在までの四十二年間にご指導いただいた先生との思い出は私の脳裏に焼き付いて離れません。これからも私たちを見守っていてください。

ご冥福を心よりお祈りいたします。

山本大悦(書源2020年12月号より)

 
   

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